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戦中のマジック書 『奇術の世界』 から―

戦中のマジック書 『奇術の世界』 から―_c0049409_18582393.jpg“香炉と紐”で1938年度の米国スフィンクス賞を受賞した奇術研究家の坂本種芳氏(天城勝彦氏)により、『奇術の世界』 が力書房から発行されたのは、昭和18年(1943年)11月17日。大東亜戦争の局面が一般市民にも怪しい情況である事が分かり始めた時期と推測されます。この時期は、かの谷崎潤一郎氏なども、熱海に疎開し新しい作品の発表を控えていた頃であり、そんな緊迫した世相の時代にマジックの解説書を三千部も印刷し出版した事が不思議に思えてなりません。

売価2円65銭の本の巻頭には、著者本人の自序を含め四人の方々の序文が掲載されています。最初の阿部徳蔵氏の序文は坂本氏への賛辞のみですが、別のお二人の文面には、奇術研究家に望む言として・・・「敵“米英”を潰滅させる力のある奇襲兵器の発明に尽力されたい~」などと、物騒なことまで書かれています。しかし、このマジック書の中身は、この時代に至るまでのマジックの歴史や作品などを中心に、日本初の 『マジック全書』 と言える内容であり、現代のマジック愛好家にとっても、日本マジック界の貴重な足跡として参考にすべき書と思います。

本文の257ページの他に、本文に関連した「写真」9ページ、附録の「奇術文化研究会」に関する5ページ~からこの本は構成されています。その大項目を記しておくことにします。
Ⅰ、奇術の今昔(奇術発達の沿革、世界的な奇術と奇術師)
Ⅱ、奇術の性格と構成(分類、原理、奇術特有の道具、術者の心得)
Ⅲ、著名な奇術とその解剖(手品、奇術、魔術、筆者考案の奇術)
Ⅳ、奇術的現象と演技(心霊術、透視術、法術、危険術と怪力術、腹話術)
[附録]、奇術二十題の解説、奇術文献(日本、近代西洋)

   *日本文献のトップは、陳眉公の「神仙戯術」
   *近代西洋のトップは、アードネスの「The expert at the Card Table」


『奇術の世界』の初版本を入手したのは数日前のことです。丁寧に扱われていたのでしょう~65年前の本につき日焼けはしていますが、書込み等は全く無く、とてもきれいな状態でした。そして本の中に“3枚の紙片”が挟まれていました。その“一つ”は乗り物の切符です。表に大阪駅、守口、天王寺などの地名があり、どうやら大阪の市電の切符のようです。
また、「19 3 10」と印字されているのが確認でき、この本の持ち主が昭和19年3月10日に乗車したときのモノと思われます。戦時中に関西に住まわれ、このマジック書を買われた当時の青年と、著者の坂本種芳氏に・・・心の中で小さく“頭を下げて”ご挨拶をしました。

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by ishiken55 | 2008-06-22 19:06 | マジック エッセイ | Trackback | Comments(0)
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