≪岡本かの子≫の手品師とは…?

読書の秋たけなわなのに、多くの長編小説に手を付けたまま、それぞれの物語が駐車場で停車状態。年初に購入したポプラ社の短編集『百年小説』も当初アクセルを踏み込んだ時の滑り出しは順調だったのに、このところエンスト気味で、この分だと年内に半分読破できるか否かと言った情況です。それでも今月に入り…谷崎潤一郎『刺青』、里見弴『椿』、岡本かの子『鮨』、内田百聞『サラサーテの盤』を読了。『刺青』は四十数年ぶりの再読でしたが、蜘蛛を纏った娘体に潜む魔性…それは憧憬から愛おしさに変貌を遂げていました。

「芸術は爆発だ~」の岡本太郎の母・岡本かの子の『鮨』は、1939年(昭和14年)に発表された30ページ程の作品です。物語は東京の下町と山の手の境にある鮨屋『福すし』を舞台に、看板娘“ともよ”と生業不明の五十過ぎの初老の紳士“湊”のお話。湊が少年時、母親が子供の異常な偏食を治すために手製の鮨を作る回想があり、その母が鮨を握る手付を「手品師のような…」と作者は短文中に三度書いています。テレビなどは勿論無く、クロースアップマジックもほんの一握りのアマチュアの間で育まれていた時代、岡本かの子は誰をイメージしてそう表現したのだろうかと、横道に逸れた興味を覚えたりしています。

自分の小学生の頃…“マジック”は「油性サインペン--」を指す言葉でした。Magicに関わりを持ち始めた昭和40年代、Magicは通常「奇術」と呼ばれていました。また、当時「手品」は簡易レベルのMagicを指す言葉として使われていたように思います。Magicを一般的に「マジック」と言うようになったのは昭和の終盤ではないでしょうか。それはマジック解説書のタイトルを見れば如実に読み取ることが出来ます。でも最近、Magic を表す日本語としては、マジック奇術 よりも手品 と言う言葉に親しみを感じています。これは漸う『手品師』に近づいた証しかも知れないと、ひとりほくそ笑む平成の鮨好き“湊”が身近にいます。

※読後に哀愁漂う岡本かの子の短編小説 『鮨』 はネットで読むことが出来ます。
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by ishiken55 | 2009-11-14 11:09 | 文芸 エッセイ | Trackback | Comments(0)
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