夏目漱石の小説
『道草』を4,5年掛けて読み終えました。長編でもない作品を読むのにどうしてそんなに長く掛かるの?…と問われたら、返す言葉がありません。
この小説は漱石の自伝的要素が一番色濃く、漱石が他界する一年前に朝日新聞に連載された小説だそうです。始めの数ページを読んだ時、
「何て暗く重い雰囲気が漂う小説なのだろう」と感じました。主人公の健三は偏屈で気難しい男。その健三には幼少時に養子に出され、また実家に戻った過去があり、後年養父であった島田と言う男に金の無心をしつこく求められる出来事がストーリーの骨格になっています。読んでいて気分が晴れないばかりか、不快な思いさえする話にページを捲るのが遅々として進まず、4,5年も読了までに要してしまいました。大正四年の新聞小説と言うことですが、当時の新聞購読者は教養人が中心で、忍耐力が備わっていた?のでしょうか。
それでも…全編の九割方まで読み進んだ頃になって、ストーリーにのめり込んでいる己に気づきました。この2年間の自分の生活上の異変とダブルようにも感じられ、人間の普遍的な人生模様を漱石は表現したのだなぁ~と思った次第です。
二十代の前半に買い求めた小型版の漱石全集。7巻に掲載されたこの『道草』で小説作品はやっと読了となりました。8巻の『明暗』は21歳の時に読んでいるので、全集の未読は随筆や評論等を収録した9,10,別巻の3冊です。『道草』の題名に併せて、余りに長い道草をしてしまったので、生前にこれらを読み終えることができるのか、少し不安になりました。マジックの方も、畦道に腰掛けて道草し過ぎていますが、
“人間万事塞翁が馬”…何れ思いも寄らない方向から、光明が射して来るかも知れません。